


敷地の大きな郊外で、庭先にネットを吊ってゴルフの練習をしている家というのは、珍しいものではない。しかし、都心の住宅密集地で、となると話は違ってくる。しかも、Oさん、Iさん夫妻が欲しかったのは天候に関係なく練習できる、屋内練習場だったのだ。
そもそも家づくりのきっかけからして、この家の性格を物語っている。「暮らしていたマンションのルーフバルコニーでゴルフの練習をしていたんですが、ネットが景観を乱すという苦情があったんです。それなら家を建てて、家の中にゴルフ練習場をつくろう!と」(妻)。設計は「ゴルフが趣味の建築家」でネット検索してたどりついた黒木実さんに依頼した。要望は前述のとおり、屋内にゴルフ練習場をつくること。
でき上がった家は、まさにゴルフ練習場が中心の家だ。玄関を入ると、夫がボールを叩く小気味よい音が響く。音につられて入ってみると、天井高が3m、10畳を超える大空間が確保されている。ドライバーを心おきなく振るには、最低限必要な大きさなのだそうだ。建築面積約13坪と、決して大きくはない住まいの中で、いかにこの練習場が優先されているか分かる。


A & B ゴルフコースに出ない休日、夫は日がな一日書斎でゴルフ番組を見て過ごす。「プロのプレーを見ていると、ときどきフォームでひらめくことがあるんです。そうしたら、練習場に行ってすぐに試してみる。納得いくまでクラブを振って、シャワーを浴びる。そんな過ごし方ができる夢のような家ですよ」(夫)
C 車庫にクルマを収めるため、外壁の下の部分をセットバックさせている。家の中では階段3段分、床を上げて対処。小さい空間を大きく使うための工夫だ
D & E 玄関を入ってすぐ左手にあるゴルフ練習場。10畳ほどの空間は床に人工芝が敷かれ、天井高は3.3m。心おきなくドライバーをフルスイングできる。背後と横にはフォームチェック用の大きな鏡も装備。その前にはパッティングレーンもある充実ぶりだ。ひたすら練習に打ち込むための空間なので、天井は2階の床材がそのまま表しになるなど、シンプルそのもの。階段下に見える部屋には妻の趣味であるピアノが置かれている
F & G 「練習場を中心に、周りに小さな居場所をつくるように工夫しました。このときに各部屋に視線が通り、互いの気配が感じられるような抜けを設けています」と設計者の黒木さん。練習場の壁には書斎とピアノ室に通じる「穴」があけてある

A 当初の計画では、ピアノが置かれるはずだったため、階段の腰壁が高い。本来のリビングは、書斎の位置を予定していたらしい
B 寝室の壁は見せる収納となっていて、夫のネクタイや小物がディスプレイされる
C 美術館のような、と要望した外観。外に対して閉じてプライバシーを確保した
家の中心に巨大な練習場を設置したために、犠牲になった部分ももちろんある。たとえば、普通の家にあるようなリビングダイニングの空間が、O+Iさんの家にはない。しかし、これには夫妻のライフスタイルも大きく関係している。「私の仕事がゴルフ雑誌の編集なので、生活時間が不規則なんです。家に帰ってゆっくり食事している時間がないので、うちは外食がメイン。となると、立派なキッチンもダイニングもいらない。不自由に感じることがあるとすれば、来客に泊まってもらう部屋がないことくらいかな。でも、私にとっては仕事に直結した楽しい家だし、コミュニケーションツールにもなってます」(妻)。
コミュニケーションツールといえば、ダイニング代わりのバーカウンターには19番ホールという名前をつけて、ゴルフ帰りの仲間とゴルフ談義に花を咲かせている。つまり、遊び場のある家ではなく、家全体が遊び場なのだ。
黒木さんは言う。「夫妻はゴルフを完全に生活の一部としています。だからこの家も家の中にゴルフ練習場をつけたというより、夫妻のライフスタイルがそのまま自然に形になった。そういう住宅だと思っています」。

D 銀座にある、行きつけのバーのカウンターを寸法もきっちり測って再現したダイニングカウンター。椅子の数はゴルフの1パーティ=4人分。ちなみにこのカウンターの名前は19番ホールなのだそう
E & F 2階の屋上テラスはアウトドアリビングとして活用する。「来客はほとんどがゴルフ仲間なので、ここでゴルフ談義を交わしたり、『19番ホール』で食事したり。私たちは何かしていないと気が済まないたちなので、休日もふたりでゆっくり休むということがありません。だから屋内のリビングに大きな空間は不要なんです」(妻)