


神野さんの家は、岡崎城にほど近い、昔ながらの商店街に建つ。道路正面から見ると、窓の少ない静かな表情の建物だが、左手にはガラス張りのドアがあり、通りから直接、下の写真のカフェスペースに入れる。「昔、小さなお店をしていた経験があって。自分の家を建てるときは、また始めたいなと思っていたんです」と妻・千尋さん。ひとり息子の琢真くんが東京の大学に入って家を離れたら、営業を始めようと考えている。だから、この家は夫婦2人の生活を中心に考えてつくられた。
岡崎は、ヤマハ・ジャズクラブの創立者の出身地で、「ジャズ・ストリート」などのイベントも行われる「ジャズの街」。「カフェでも、ジャズを流したい」という千尋さんの希望から、建築家・七條章裕さんがイメージしたのは「昭和レトロ」だ。特注の椅子と天井を、同じ多色使いのストライプにして、小さいけれど魅力的なカフェ空間をつくり出した。
地元育ちの千尋さんは、この店を、近所の人の憩いの場にしたいと考えている。「入り口もバリアフリーにしたので、お年寄りにも、気軽に来ていただきたいですね」。

左/ソファの後ろのスリット窓から通りを見る。外の気配は分かるが、直接通行人の姿は見えない
中/家具はすべて七條さんのデザイン。年配の人でも楽に立ったり座ったりできるよう、ソファにはスポーツクラブなどで使われるのと同じ、堅めのクッションを入れている
右/カウンターを挟んで、夫・憲司さんと妻・千尋さん。今のところ、このスペースは友人たちが集まる場所になっている
照明の周りの飾りは陶芸家・永井孔美子さんの作品
螺旋階段の裏側にもカラフルな色が塗られている。カフェの暖色系と対比する色としてグリーンやブルーの寒色系の色づかいを選んだ。カラーチップをいくつも並べ、七條さんと神野さん夫妻とで決めた色だ

キッチンカウンターの上にさりげなく並べられた草花や急須がディスプレイのよう。ここもすでに千尋さんの個性が表れた「カフェ」のような雰囲気だ
住まいの中心は、スキップフロアの2階。ペントハウスに続く吹き抜けを含め、全体がつながった空間だが、床の高さや天井の高さが異なり、様々な居場所や眺めが楽しめる。
1階から屋上バルコニーまで続く螺旋階段を上ると、まず下の写真のリビングスペース。天井高が5mもあり、バルコニーに面した南の窓と、ペントハウスのハイサイドライトから入ってくる光が、大きな白い壁に反射する。1階カフェの天井を高くしたぶん、床が上がっている部分がダイニングとキッチン。キッチンは対面式のセミオープンだが、手元が隠れる高さになっているので空間全体の中ではあまり目立たない。
寝室も、同じ2階の北側にあり、引き戸だけで仕切られているので、日頃は開けていることが多いそうだ。浴室以外のすべてが、この2階にまとまっている。
「ここで暮らすようになってから夫婦げんかをしなくなったんですよ」と千尋さんは言う。「相手がどこで何をしているか分かるから、必要なときは声を掛け合える。ちょっと音楽かけてもいい?とか、先に寝るね、とか。自然にお互いを気遣い合える空間になっているんだな、と思います」。

A.リビングスペースの天井はペントハウスに続く吹き抜けで、高いところで5mほどある。2階の屋根より高い部分にハイサイドライトを設けた。ストーブの向こうはバルコニーに面した窓
B.キッチン内部。手元は隠れるが外は見える対面型
C.ダイニングはリビングより階段4段ぶん高くなっている。部屋の真ん中にある階段は、ちょっと腰掛けるのにちょうどいい。「ときどきここに座ってテレビを見たりしてます」と千尋さん。背後のステンレスの壁がキッチン
D.薪ストーブは憲司さんが選んだもの。鍋ややかんが置けるスペースがあり、冬はここでお酒をお燗したりもしたそう。「暖かくって幸せでした」と千尋さん

A.ダイニングから2階を見渡す。正面が寝室。螺旋階段の上にも本棚と椅子を置いて、ちょっとしたコーナーをしつらえた B.寝室は通気窓だけの落ち着いたスペース。引き戸で閉め切ることもできるが、たいていは開けたままにしている C.リビング横のトイレ D.キッチン側からリビングスペースを見下ろす。大きな白い壁にペントハウスのハイサイドライトからの光が当たり、のびのびとした明るいスペースだ E.1階から屋上まで続く螺旋階段。垣間見える裏の色彩が空間のアクセントになる F.1階の多目的室。写真左は玄関、奥に2階への階段がある。ここは、隣に住む千尋さんの両親との交流の場でもある G.1階のバスルーム。白いタイル貼りに置き型の浴槽、ガラスの間仕切り。シンプルで清潔感がある
