


焼け付くような真夏の直射日光も、この家の軒下に入ればしのげる。大きな切妻屋根の下には、造作ベンチを備えたポーチが設けられ、玄関に入ろうとする者をさりげなく迎え入れてくれる。
建主のFさん夫妻は共働き。夫は夜勤もあり、日中に睡眠を取ることもある。「だから安心して休める家にしたかったんです」(夫)。
入り口にあるのは、ダイニングと同じくらいの広さがある土間。玄昌石が敷かれ、夏はひんやりとした質感、冬は日だまりの温もりを味わうことができる。
キッチンとダイニングは土間と一体になり、32畳の広間に。屋根勾配をそのまま生かした吹き抜けの下で、のびやかに食事を楽しむ。
一段上がった奥には座卓のリビング。そしてきっちり仕切られた寝室。こちらは広間とは対照的に天井高をあえて低くし、ゆっくりと落ち着ける雰囲気をつくった。
広間と座卓の間には引き戸を入れた。来客時や冷暖房を効かせたいときには仕切ることもできる。家族は緩やかに連続する平屋建てのような室内を自由に動き回る。
設計者・杉下均さんは「伝統的な民家のような骨太の構造は頼もしいですよね」と話す。大らかさと安心感が家族の生活を包み込む。

A&B. 建物の西側に架けられた下屋の内部は玄関ポーチ。壁を立てて木製のベンチも据え付けた。靴の着脱をしたり、夕涼みをしたり、近所の人との会話の場にもなる。雨の日は子どもたちがここで遊ぶこともできる。F邸の「もうひとつの部屋」だ。ここが外部との緩衝地帯となっているため、玄関戸を開ければすぐに広間となる C. 南側の道路から見た外観。開口部は大きいものの、内外の明暗差や植栽などによって内部の様子はさほど露出しないですむ D. ダイニングから玄関方向を見たところ。勾配天井は最高部で約4.8mの高さがある E. 玄昌石を張った土間。玄関部分以外は靴を脱いで歩く。南に大きな開口部を設けた。木製サッシの枠は土間から一段高い位置にし、そこにも座れるようになっている(ページトップ左参照)。土間は、高度の低い冬場の太陽光を受け止め、蓄熱するという役割も果たす

右/大きな屋根の下に広がる室内。野地板と垂木の確かな存在感が生活の場を包み込む
左/子ども室で走り回る長女を見上げるFさん夫妻。2階フロアは1階広間と距離が近く、ロフトのようなスペースに。子ども室はダイニングに面しており、お互いの様子を伝え合う。「同じ部屋にいるような感じです。家族が一緒にいられるのがいいですね」(妻)

右/杉下さんは造作の木製引き戸を多用する。「木の空間に合うし、風の通り道を確保しやすい」のが理由だ
左/建具枠も無垢材で揃えて統一感を出した

A. 2階の子ども室は、まだ姉妹が幼いため、フリーなスペースのままにしてある。1階の居室とはまた違った小屋裏のような雰囲気が楽しい
B. 2階の南側には和室も設けた。背をかがめて入る茶室の「にじり口」のような入り口を通るようにしてあり、そこに入るだけで気分が切り替わるようになっている
C. 和室はわずか4畳ほどだが、オープンスペースの多いF邸では貴重な「こもれる個室」。窓には田園の先に馴染み深い里山の景色が広がる
F邸のプランニングで杉下さんがイメージしたのは、日本の民家に見られる「田の字」型の間取りだ。大黒柱を中心に規則正しく矩形に区切った平面計画は、合理的に構造材を使い切れるというメリットもある。F邸では2間(約3.6m)間隔で柱を配置し、各室は8畳の広さを基本とした。「伝統的な尺寸法は日本人の身体感覚に馴染むのでは」と杉下さんは考える。連続する空間を引き戸で仕切ることで、室内全体を多彩に使うことが可能になる。
外観は周囲の田園風景にとけ込むように、軒高を低くし、どっしりと。圧迫感や威圧感は最小限に抑えながらも、しっかりとその存在を感じさせている。ガルバリウム鋼板の屋根と樹脂モルタルの外壁で構成された外観には、どこか蔵のような力強さが漂う。
深い庇が直射日光を遮り、窓を開ければオープンな室内に心地よい風が通る。「真夏でもよほど暑いとき以外は、クーラーに頼らないで過ごせます」と妻。寒さが厳しくなってくれば、戸を閉め切って、座卓の間に家族が集う。「和風を特別に意識していなくても、心地よさを求めていくと、自然と和のスタイルに収束していくような気がします」(杉下さん)

D. ずっと床座の生活をしてきたFさん夫妻。リビングにも造作の座卓を置いた。天井高は約2.15mと低めにし、落ち着きを演出した。窓辺のローキャビネットにも腰掛けることができる
E. 1階北側の寝室は、家族の集まる広間から最も遠いところに配置されたため、夜勤明けの夫もゆっくり休める。窓に板戸をはめて日光をシャットアウトすることもできる。写真正面の小窓は隣のウォークインクロゼットの通気を図るためのものだ
F. 広間部分は、土間、ダイニング、キッチンがひと続きに。床を玄昌石、杉の無垢板と張り分けることでゾーニングを図っている