


玄関ホールの引き戸を開けると、LDの奥にキッチンと書斎コーナー、庭に張り出したデッキまで、1階のすべての空間が一目で見渡せる。LDの中心は、大きな掘り座卓。飾り棚を背にして掘り座卓に腰掛けると、キッチンに立つ人との目線やデッキの周囲を囲む樹木の眺めがちょうどいい。四方に開けた窓へ通り抜けていく風が気持ちいい。床と天井は木、壁は和紙、建具は木、目や手に触れるのは自然素材だ。家具は造り付けの掘り座卓だけなので、重心も視線も床に近くなり、この空間にいる
だけで気持ちが落ち着いてくる。
Yさん一家は以前暮らしていた家でも床に座って食事をしていた。ベッドは使わず、ソファは背もたれにという床に近いライフスタイルだった。家を建てるなら建築家に設計をと思っていたYさん夫妻は、木漏れ日に包まれた加藤武志さんの事務所+自邸を訪れて「こんな家に住みたい」と思った。加藤さんはYさん一家の床に近い暮らし方や、夫婦で仕事と育児と家事をこなしているという話を聞いて、LDの中心を掘り座卓にすることを提案した。子どもがLDで遊んでいるのを見ながら料理をしたい。そこで床面を35cm下げた対面式キッチンになった。


A. 庭の樹木に囲われたデッキからLD を眺める。LD は4歳になる長女の遊び場。階段下に設けた通風用の窓は、木の縦格子を付けている
B. 飾り棚を背にして掘り座卓に腰掛けると、正面に額縁に入った絵のように庭が見える
C. 配膳カウンターを少し高くしているので、作業中のキッチンの乱雑さは見えない。長さ2.4m、幅80cmの掘り座卓の床下には床暖房を設置

D. ザルやボールなどの水切りができるように、底を網にしたシンクの下の引き出し収納
E. 大皿は取り出しやすいように、少し斜めにした仕切りの間に1枚ずつ縦に入れる、引き出し収納
F. IHコンロの後ろは、炊飯器などの家電製品を使わないときには隠せる収納棚。パントリーの通気は、縦格子の入った窓で

上/食材を冷蔵庫と奥のパントリーから取り出し、洗う、切る、火にかける。動線がよくできているので、作業に無駄がない
下/ LD の床面より下げたキッチン。リノリウムの床は床暖房を設置

料理を1週間交代の当番制にしている夫と妻。妻は和食が得意。夫はインターネットを見ながら新しい料理に挑戦している

A. こちらも掘り座卓にした書斎コーナー。1枚板のデスクの上は本棚。足下の土間には床暖房が入っている。床に腰掛けると緑に囲まれたデッキや野菜畑が、横長の窓からちょうどいい位置で眺められる。子どもが小さいうちは、ここが勉強部屋になりそうだ
B. 寝室。正面は洗濯物を干したまま外出できるベランダ
C. 2階のベランダからデッキを見下ろす。風や光が感じられる気持ちのいい場所。ヒメシャラ、アオハダ、ナツハゼなどの落葉樹を植えている
一室空間のいいところは家全体が見渡せるので、実際の床面積よりも広く感じられるところだ。キッチンに立つとLDはむろん、書斎コーナーや坪庭のある浴室、そしてデッキの周囲を覆う多品種の樹木や草花を植えた庭まで視界に入ってくる。周囲は住宅に囲まれているが、雑木林の雰囲気をめざした植栽は隣家を見えにくくしてくれる。加藤さんはいつも建物と一緒に植栽を考えている。だから工事費を調整するときも植栽は譲らないそうだ。庭の樹木はデッキに緑陰をつくり、露天風呂に入ったような楽しさを提供してくれる。樹木に触発されて、Yさんは庭の一画に野菜畑をつくった。
天窓からの光が入る階段を上がった2階には、寝室とクロゼットと子ども室がある。寝室の南側には雨が降っても洗濯物を干したまま出かけられるようにと、妻が要望した広めのベランダがある。現在、子どもは4歳の長女ひとりだが、妻の体内にはふたり目の子どもがいる。「子どもは3人欲しい」という夫妻。だからL字型の子ども室は、2つか3つに仕切れるように設計されている。やがて掘り座卓を囲んで家族5人で食事をする頃には、長女がキッチンに立って料理をしているかもしれない。

D. 樹木を眺めながら入浴できる浴室。隣家との間に板塀を設けて視線を遮っている。壁・天井はサワラ、床は十和田石
E. 玄関は収納も多く広い。玄関ドアは木製の引き戸、たたきは磁器タイル
F. 天窓から光が入る2階廊下。長女の絵が貼ってあるボードの反対側はL字型の子ども室
G. LD全体を遊び場にしている長女が見つけた階段下の隠れ家
H. 庭を背にして階段側を見る。和紙を貼った壁に板を渡しただけの飾り棚だが、LDに落ち着いた雰囲気を醸し出している
I. 道路側外観。道路との間に余裕を持たせて建物を配置している。右側は駐車場。建物正面は磁器タイルを敷き詰めたポーチ。外壁は火山灰の入った櫛引き仕上げの塗り壁
