


建築家の駒井貞治さん一家は4人の子どもを含む大家族で、あえて借家を転々としつつ増改築までしている。秘策は自身が編み出したシステム。何十本もの角材を持ち込んで巨大なジャングルジムのようなフレームを組み、建物の構造をあまりいじらずに新しい空間を生み出そうというもの。これなら家族の変化に合わせて変更できるし、解体して次の家でも使える。子どもの成長を見ながら仕事をしてきた駒井さんならではの発想だ。
京都の中心部にある今の自宅兼事務所は、このシステムを活用した2軒目で、古い倉庫を借りて改造した。1階が事務所、2階が住まいだが、駒井さんは2階の床の一部を抜いてつくった吹き抜けに、3層のフレームを挿入。2階とつながった中段と上段の2層を子どもたちの個室ゾーンにあてた。
個室といってもドアも壁もない、ただの枠に囲まれた2畳の各コーナーだが、これが基地のようで何とも楽しそう。リビングとつながっているだけでなく、下をのぞくと仕事中の父の背中も見える。「こんな家で育ったせいか、子どもたちはどんな状況でも平気で自分の世界に入れるし、自分の居場所を見つけるのを楽しんでいるみたいです」と妻の三佐さん。

A. 子ども部屋下段からは1階事務所が見える
B. 2階リビングから、巨大なベッドのようなフレームを見たところ。3層からなるフレームは、床を抜いてつくった吹き抜け空間に設置されており、リビングから見えているのは上の2段分。1段がさらに中央で二分され、各2畳×4つのコーナーができ上がっている。上段左がみんなの図書コーナー、下段左が次女・朝子ちゃん(写真左)と三女・時子ちゃん(写真右)の部屋、下段右が長男・太郎くんの部屋。上段右はつい先日まで長女・花子ちゃんの部屋だったが、集中して勉強したいとのことから、1階に移動したばかり。上段へは手前の収納を兼ねたベンチから上り下りする。下段は両端に小さな階段がついている
C. 古い倉庫を改造してつくった駒井さんの自宅兼事務所。1&2階を貫通するフレームが見える。1階の事務所や2階の窓から、通りの様子がうかがえる。右隣は広い公園

A. 手前のリビングとつながったキッチンも、子どもたちにとっては好きな居場所のひとつ。今日のおやつは朝子ちゃんと時子ちゃんの手づくり。料理上手な母・三佐さんを見て育ったせいか、慣れた手つきで材料や道具を揃えてつくり出す2人。三佐さんも下手に手出しをせず、見守っている
B. 隣接する公園に面した北側にダイニングを配置したので、窓からは豊かな緑が存分に眺められる
C. 表面も美しく、ふんわりしたカフェ顔負けのパンケーキのでき上がり。みんなに「おいしい」とほめられて、ご満悦の子どもたち
D. 明るく眺めのよいダイニングで三佐さんをもてなす2人。駒井さんによれば、食卓に指定席はなく、毎回長女の花子ちゃんが仕切って、公正なる席替えが行われるそうだ

リビングよりやや下がった下段の子ども室を見通す。手前が太郎くん、奥が朝子ちゃんと時子ちゃんのスペース。それぞれ手前と奥の小さな階段でアクセスする。中央に見える鉄骨はもとの倉庫の梁
子どもたちを見ていると、確かに「ここが自分の部屋」という意識は希薄らしく、フレームの中と外を自在に行き来して、思い思いの場所で過ごしている。それに、一見あけっぴろげに見える空間だが、随所に隠れ家のような場がある。「見えない死角をつくれば、子どもはうまくひとりになれる場所を見つけていく」と駒井さん。
ちなみに、駒井家ではつい先日、何度目かの改装を敢行。中学2年の長女・花子ちゃんが近頃猛勉強を始め、家族が寝ている脇で机に向かうので、2階の生活空間とは別に、1階のフレーム内に勉強部屋を設けることにしたという。長いデスクは父と共用で、事務所とは引き戸で仕切ることもできるフレキシブルなスペースだ。
子どもの個室なんかいらないという考え方もあるが、個室にこもりたい時期もあって当然と駒井さんは言う。その一方で、成長して手がかからなくなった時期こそ、親子のかかわりが重要とも語る。あえて仕事場を自宅と一体にする理由もそこにあるそうだ。
ところで、実は駒井さん一家、目下もう少し郊外への引っ越しを計画中とのこと。子育てと同時進行の可変自在な家づくりー駒井さんの挑戦は今後も続いてゆく。

A. 吹き抜けの西側に新たに設けた階段からフレームを見たところ。フレームは建物の構造とは無関係なので、解体して次の家に持っていくことも可能。まさに組み立て家具感覚
B.C. 天井板をはがしたら、昔ロフトとして使っていたスペースが出てきたため、一部を屋根裏収納として活用中(写真上部)。中ほどに見えるのがロフトに通じるハシゴ
D. 以前ここにあった階段は撤去。借景を生かすべく、反対側に階段を新設した。床をふさいだら居心地のよいダイニングに。上の写真は、犬のゲージの中に入って遊ぶ時子ちゃん
E. 帰宅した太郎くん。通学路に面した事務所からは、登下校する子どもたちの様子がよく分かる
F. 事務所の看板を掲げた1階入り口。昔の商家の店先のようだ
G. 随所に隙間があり、家族の気配が伝わる駒井家
H. フレームの1階部分に新設した書斎。右が花子ちゃんの勉強部屋、左が父の書斎。撮影のためにはずしたが、実際には手前を板戸で閉じられる。父と娘の間に壁はないが、勉強を教えてもらうのに便利だし、父がいないと倍の広さが使えるから不満はないという
I. 完成したばかりの花子ちゃんの勉強部屋。引き戸を閉めれば、こもれる個室に

各2畳のスペースはコックピットのようで、なかなか居心地がよさそう。フレームに取り付けた棚を活用して、それぞれ上手にディスプレイ。個性が表れている

駒井さんは現在、次なる住まいを設計中。今回は新築だが、事情があって持ち家ではなく、またまた借家。敷地は京都市郊外にあり、極端に細長い変形地。幅は最大でも2.4m、最小では1.8mしかないという。ここに電車の車両のような5棟を建て、間をデッキなどでつないだプランになるそうだ。子どもの個室棟ではまた角材のフレームが活躍。「部屋を用途で分けるのではなく時間で分け、いろいろな場がしつらえられた家のよさは継承していきたい」と駒井さん

(1)書斎 以前は事務所やギャラリーとして使っていたが、最近、父と長女の書斎に生まれ変わった。家族共有のパソコンコーナーにもなる
(2)事務所 打ち合わせコーナーは、先生を招いて子どもの図画工作教室になることも
(3)キッチン 母ばかりか子どもたちも、料理やお菓子づくりを楽しむ
(4)リビングダイニング6人家族の生活の中心となる場。夜は、布団を敷けば寝室に早変わり
(5)子ども室 フレームで軽く仕切った4 つのユニットが子どもたちの最小限の個室
(6)ロフト 探検しがいがありそうな屋根裏収納