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2階のLDKから緑を楽しむための傾斜庭

 繁華街からほど近い住宅密集地に建つ、白い箱型の家。道路側に玄関ドアは見当たらず、どこから入るのかとまごまごしていたら、車庫の奥の板塀に設けた扉が開いて、上から「どうぞ」と声がする。扉の向こうには思いがけない景色が待っていた。眼前に広がるのは緑に覆われた斜面状の庭。斜面に沿って裏山の散策路を思わせる木の階段があり、訪問客はここから2階の玄関に至るという趣向だ。
 Yさん夫妻は3歳の息子との3人暮らし。夫妻が建築家の米倉拓生さんに伝えたいちばんの要望が庭だったという。「共働きで平日は仕事に追われているので、休日は日常とは違った空間でゆったり過ごしたかったんです」と妻。
 庭を眺めるならLDKは1階がセオリーだが、1階には駐車場も必要だし、周囲に隣家が迫っているので日当たりも期待できない。かといって2階にLDKを配すると明るさと広さは確保できるが、せっかくの庭を遠くから見下ろすことになってしまう。このジレンマを解決する米倉さんの妙案が、2階からも緑が楽しめる斜面状の庭をつくるというものだった。「とにかくびっくりしました」「でも、面白そうな気もしたね」と夫妻は笑いながら振り返る。

右上/北側道路から見た外観。市街に近い住宅地の一画にあり、隣家に囲まれているため、外に対しては閉じた中庭型プランを選択。 外から中の様子はうかがい知れないが、内部には斜面状の広い庭がある。写真左は中庭から道路を見返したところで、2階はLDK

右下3枚/多忙な平日の疲れを癒し、休日は自宅でゆったり過ごしたい夫妻にとって、庭はまさにオアシス。家づくりの重要ポイントだったという。 草花や虫に興味津々の息子にとっても、格好の遊び場のようだ

A/ LDK はオープンなワンルーム。アイランドキッチンの背後にある収納の扉は折り戸で、普段は全開して作業できる
B/アイロン掛けをしたり、客間として用いている和室。地窓越しの緑も美しい
C/浴室と一体になった洗面所。モザイクタイル貼りの洗面台が愛らしい。奥は寝室、手前は予備室に通じている
D/1階浴室。「お風呂に浸かりながら庭を眺めたい」というのが妻のたっての要望だったそうだ。 中庭の斜面に沿って斜めに切り取った開口部から、緑が存分に眺められる

2階北側から見た中庭全景。1階入り口の木戸から入った訪問客は斜面沿いの階段を上り、テラスを経由して左手前の玄関に至る。 長い距離を歩くわけだが、裏山の緑を楽しみながら散策しているようで、苦にならない

建物と板塀で中庭を囲って
プライバシーを守る

 米倉さんは、中庭を囲むようにL字型に建物を配置し、残る2辺に塀を立てることで、隣家からの視線を気にせず、庭の緑が存分に楽しめる住まいを実現。初めは東側に中庭を配していたが、敷地の西側のほうが空き地もあり、多少は視線が抜けることから、急きょ建物と庭の配置を逆転したそうだ。「そのほうが塀の高さも低くてすむ。あまり高い塀で隔てると近隣に対して排他的な印象を与えかねませんから」と米倉さん。
 実際に2階のリビングから中庭を見ると、斜面の緑が正面に見えるだけでなく、目の高さより上に樹木が生えており、一瞬1階で地続きの庭を眺めているような錯覚に陥るほど、庭との距離が近い。
 ちなみに、敷地は決して傾斜地ではなく、庭は平地にわざわざ擁壁をつくり、土を入れてつくったもの。造園を担当した緑心園の永島光芳さんは、「最初に米倉さんのイメージスケッチを見たときは、どんなものができ上がるかという楽しみが半分、泥が流れないかという心配が半分でしたね」と述懐する。下草がしっかり根づくまでは多少泥が流れることは避けられないため、斜面の途中に竹でアクセントをつけ、土留めと水やりの際の足場を兼ねるなど、ディテールにまで気を配ったそうだ。
 中庭は目下、夫妻にとっては日頃の疲れを癒す観賞の場だが、3歳の息子にとっては格好の遊び場であり、自然観察の場。妻いわく、「息子は木製の階段ではなくわざわざ階段がない斜面を転がり下りたりしてますね」。撮影の途中で雨が上がるや、すかさず庭に出てナメクジの出現にも一喜一憂。そんな様子を眺めながら、米倉さんは「これからどんどん土に親しんで、わんぱくに育ってくれるといいなあと思ってます」と、うれしそうに目を細めた。

A/外階段の途中から建物の東側を見たところ。左手の樹木はヤマモミジ。その奥に見えるのは、斜面の勾配に合わせた浴室の開口部。左下奥には、家族が普段1階から出入りするための勝手口が設けられている
B/ 2階玄関からテラスを見通す。オーニングは夏場の西日を遮るため、最近付け加えたもの

入り口から一歩入ると眼前に斜面状の豊かな緑が出現。正面のシンボルツリーはコナラ。斜面の途中に見える竹は土留めと水やりの足場を兼ねたもの。当初は泥が流れることもあったが、下草が根づいて落ち着いている

data
  • 敷地面積/ 129.16㎡(39.14坪)
  • 延床面積/ 97.04㎡(29.41坪)
  • 1階/ 47.61㎡(14.43坪)
  • 2階/ 49.43㎡(14.98 坪)
  • 用途地域/第1種住居地域
  • 建ぺい率/60%
  • 容積率/ 100%
  • 構造/RC造+木造軸組工法
  • MATERIAL
  • ●外部仕上げ
  • 屋根/ガルバリウム鋼板瓦棒葺き
  • 外壁/アクリル系弾性リシン吹き付け
  • ●内部仕上げ
  • 床/メープル床暖房用フローリング
  • 壁&天井/塗装
  • 2階 床/磁器質タイル貼り
  • 壁&天井/塗装
  • INSTRUMENTS
  • 厨房機器/オリジナル
  • 衛生機器/ INAX、TOTO
  • 設計/米倉拓生(アトリエT+K)
  • 〒194-0022
  • 東京都町田市森野4-10-35
  • TEL 042・722・9261
  • 施工/かしの木建設
  • TEL 043・237・1886
  • 造園/緑心園

【A】中庭 1階と2階をつなぐ立体的な斜面状の庭。訪問客は外階段から2階の玄関へ至る
【B】予備室 将来子ども部屋を2 つに分けることを想定
【C】浴室 庭の勾配に合わせて斜めに切り取った窓から緑が見える
【D】寝室 斜面に接した半地下にあり、2方向に抜けられる。1階はぐるりと一周でき、洗濯動線もスムーズ
【E】LDK アイランドキッチンを中心にした一室空間
【F】テラス 室内の延長として活用
【G】和室 地窓から趣の異なる眺めが楽しめる

これらのコンテンツは、
扶桑社「住まいの設計」2009年9月号
詳しく掲載されています。
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著作権について

このページに記載されている記事本文、写真等は扶桑社「住まいの設計」2009年9月号より転載しています。

このページに掲載されている建築物件で使用されている建材等は、ニチハ株式会社の製品とは
異なるものが含まれている可能性があります。

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