


日本でも有数の避暑地として知られる軽井沢。駅前の喧騒を抜けて、山を登った中腹にTさんの別荘がある。
「傾斜地なら地代を低く抑えられるうえ、眺望もいい。実際、想像以上の建物をつくることができました」とTさん。
設計は、同じく軽井沢に「森の家」を建てた三浦慎さんに依頼。
敷地の傾斜を生かした間取りと、眺望が楽しめる気持ちいい浴室を要望として挙げた。
提示されたのは、Tさん夫妻の想像を超えたプランだった。玄関扉を開けると、目の前が浴室だったのだ。
「意外に思われるかもしれませんが、浴室ありきでつくったプランではありません。
敷地の傾斜を考えると、樹上、木々の緑、地面と木々の根元という3パターンの景観を楽しめる建物ができることに着目。
階層ごとの機能を割り振った結果、浴室はあの位置がベストだったのです」と三浦さん。
建主のTさんも、「玄関を開けたら浴室、と最初に聞いたときには驚きましたが、非日常的な空間をお願いしたし、
誰からも見られる心配のない敷地なので、気になりませんでした」(妻)と、アバンギャルドなプランにすんなりGOサインを出したのだった

A. 傾斜30度という急斜面に建つT さんの家。「隣にも家はあるし、
工事の問題はないだろうと、斜度を気にしなかったのですが、重機の搬入が難しくて、施工業者を見つけるのに苦労しました」(夫)
B. ローコスト対策で建主自らが外壁材の杉板を塗装。配管やボイラーなどの設備機器が見えないように工夫された美しい外観だ
C. 浴室の南側は、屋根の上が階段状の展望デッキになっている。
専用の組み立て式ベンチとテーブルをセットすれば、遠く筑波山を望む絶景を肴に、ビールを飲む贅沢が味わえる
D. 玄関を入ると目の前が浴室。「別荘なので、スキーなどの遊びから帰って、すぐに浴室があるのは機能的です。
玄関から浴室まで、床は完全防水してありますから、ここで着替えをすませれば、濡れたものを居室に持ち込まずにすみます」と建築家の三浦さん

正面の格子が玄関の引き戸。 もちろん板戸もあるし、普段はカーテンで目隠しされる。 「プランを提示されたときには驚きましたが、別荘だから、誰かが訪ねてくることもないですから」(夫)

C. 敷地の傾斜に合わせて最も低い場所に位置するのが寝室。
「最上階で空と緑、中2階のLDK では緑一色、階下の寝室では地面と木々の幹というレベル差を生かした景観を楽しめます」と三浦さん
D. ジェットバス機能のついたバスタブはジャクソン社製(Visconte S)。使用時はカーテンを用いているので、階下に飛沫が落ちることはない。
直線的なラインが美しいシャワー混合水栓は、ドイツのグローエ社製の3417710C だ。また、シャワーヘッドも同社の28765000
浴室からの眺望は絶景である。
南側の窓を開けると、階段状になったウッドデッキの向こうに軽井沢スキー場のリフトが見える。
「冬は木々の葉が落ちて、スキー場のナイターが目の前に見えるし、
澄んだ空気の中高崎の夜景から筑波山まで見通せて、それはいい気持ちです」(夫)。
入浴でほてった体は絶景のデッキで冷ますこともできる。
実際Tさん夫妻は竣工直後ここに来ると、真冬にもかかわらず、浴槽とデッキを行ったり来たりしたのだそう。
浴室と、窓を隔ててつながったウッドデッキは、まさに「非日常性」を楽しむための、舞台装置なのだ。
玄関を入って、浴槽の脇の階段を下りると、中2階がLDK。
ここは天井の高さを抑えて床座としており、東側の窓から見える景色が、掘り込まれたキッチンや、
カウンターテーブルから眺めるとちょうどいい高さに計算されている。LDKの下は南側に吹き抜けを持つ寝室。
これらの居室からは、高さの変化によって、異なった木々の表情を楽しむことができる。
「冬は体験ずみなので、夏から秋に向かうこれからの季節が楽しみ」というTさん夫妻だ。

A. 集成材のラーメン構造で、フレームが等間隔にリズムを刻む。
LDK空間は床座を基準に窓の高さが設定されていて、キッチンやその延長のダイニングテーブルから見える景色は、木々の緑一色である
B. キッチンはステップ2段分下げられていて、掘りごたつのようなカウンターテーブルに座った人と、視線が合う設計になっている。
「夏も冬も絶景を楽しみながら作業ができるキッチンです」(妻)
