


富永さんの自宅兼事務所は、東京郊外の起伏に富んだ住宅街に建つ、ごくありふれた木造2階建てだ。建設から約50年を経て、腐朽やシロアリも目立っていた。「50年前の木造住宅の場合、一般的にいって基礎に鉄筋は入っていないし、柱も細い。構造的には問題が多いと見たほうがいい」と富永さんは言う。「もし、ほかの人からリフォームの相談を受けたとしたら、危険だから建て替えたほうがいいとすすめたかもしれません。自分の家だからリフォームにチャレンジできたといえるでしょう」
住んでいたから、構造の弱いところもだいたい予想できた。それでも、解体して初めて分かったこともあったという。「内部の仕上げをはがしてみて、問題があった木部はすべて入れ替え、構造用合板で補強しました。1階の床には鉄筋入りのコンクリートで土間を打ち、基礎に連結して足下を固めています」
窓をふさいだところはあっても広げたところはないという。脆弱だった四隅もしっかりと固めた。「これであと50年は持つと思います。ごく普通の家でも、これだけ寿命を延ばすことができれば、リフォームの意義は大きいのではないでしょうか」

右/太い梁には小学1年生の長男のための縄ばしごをぶら下げている
左/妻・千穂さんはインテリアのプロ。
「プランは任せましたが、キッチンの天板はステンレスに、など素材には注文をつけました」と語る。
キッチンの側面も内装の色に近いチャコールグレーに染色

A. 階段を上りきったところから2階東側を見る。奥のドアが右上の写真の子ども室。
LDK はシンプルなワンルーム空間で、ダイニングセットとソファを配置して空間を使い分けている
B. 既存の増築部分をそのまま生かした子ども室。2階でもここだけは白く明るい内装だ。
左手の窓からは、向かいに建つ両親(長男にとっては祖父母)の家が見え、声をかけ合うこともできる
C. インテリアのアクセントでもある暗紅色のカーテンで仕切られた主寝室。
ヘッドボードの中に間接照明が組み込まれているほか、枕元に小さな読書灯が取り付けてある

キッチンから2階を見通す。右手の壁の中はウオークインクロゼット。テレビを取り付けた間仕切り兼収納の向こうが主寝室。左手の窓は既存のアルミサッシのままで、ブラインドでカバー

富永さんにとって、自らが生まれ育ったこの家には深い思い入れがある。
また、「表面をすべて新しくしてしまうのではリフォームの意味もなくなる」とも考える。
写真の2階空間は、内装こそすべて仕上げ直したが、天井に表れている小屋組みは既存のままだ。「この小屋組みは、平屋だった新築当時につくられ、増築時に2階に取り付け直したものだと思う。つまり、50年前から受け継いだ小屋組みなのです」と富永さん。木の幹の形そのままの材や、材を継ぎ足した部分など、当時の家づくりの様子をしのばせる。
天井と壁はグレーに塗装したシナ合板。塗料を薄めて木目を浮かび上がらせた表情は、古さ新しさを超えて小屋組みと馴染む。「グレーの内装は、実は家具や植物がよく映える色なんです。しかし、一般に壁の色は白が好まれ、提案してもなかなか受け入れられない。自分の家でようやく実現できました」と富永さんは笑う。
一方、1階オフィスの打ち合わせスペースは白を基調としたシャープな空間だ。補強のために打ったコンクリートの土間に、床暖房を敷設している。
そして、この空間の裏手には、昔のままの和室がそっくり残されている。ここはかつて祖母が使っていた部屋で、「幼い頃は、よくここに寝かされたものです」と富永さんは述懐する。柱には背比べの傷跡も残る。家族の歴史が刻まれたこの部屋が、今は富永さんの創造の場になっている。

既存の基礎は、鉄筋が入っていない「布基礎」(帯状の基礎)だった。 そこで、床材をはがし、新しく鉄筋入りのコンクリートを打って全体を「ベタ基礎」状にして強化した。 写真の打ち合わせコーナーはコンクリートの上に床暖房を敷設し、モルタルで仕上げた。 そのため、既存の和室や縁側より床が低くなっている。仕事関係の来客には、庭に面した掃き出し窓から直接出入りしてもらう。 壁と天井、造り付けの棚はすべて白く塗装し、ガラス天板のテーブルに白いパントンチェアを並べた

A. ポーチから1階奥の浴室まではブラックスレート貼りの土間が連続している。
わんぱくざかりの長男が泥だらけで帰ってきたら、まっすぐお風呂に入れる。階段は、既存とほぼ同じ位置に新しく掛け替えた
B. 東側外観。既存の外壁をふさいだところはあっても、剥がしたところはない。
ほぼ塗り替えのみなので、外から見ても内部の変化は分からない
C. 住居専用の玄関。事務所への入り口は左隣にある

1階打ち合わせコーナーから天井を見上げたところ。2階の床の一部を強化ガラスにしている。 建物の中ほどにあたる暗がりになりがちな部分で、2階に差し込む自然光を1階にも取り入れるための工夫だ。 2階からは写真左手にある、オフィスとして使っている和室の様子をうかがうこともできる

一見しただけではリフォームなのか新築なのか分からないようなリフォーム事例をよく目にしますが、それではもったいない気がします。
古いものを生かして、新しいものだけでは表現できない空間をつくることができれば、新築以上の財産になるのではないでしょうか。
特に、自宅をリフォームした経験を通じて痛感したのは「何を残すか」は、ものの価値や見た目だけでは決められないということです。
親から受け継いだ家、自分が住んできた家には、住む人にしか分からない記憶が染みついています。
これから、リフォームの依頼を受けたときには、それぞれの思い出をじっくりと聞くことから始めるべきではないかと考えています。
