


S邸でポイントとなったのは、「しまう収納」の存在だった。建主のSさんは「素人の自分が収納棚を自作していくのは、仕事が忙しいこともあり、難しい。プロにきちんとつくってほしい」と考えていた。
その要望を受け、葛西さんは、1階ではリビングやキッチン、サニタリー、玄関に扉付きの収納を設け、2階の書斎には本棚、子供室にはクロゼット付きベッドも用意した。ロフトには来客用の布団置き場も確保された。「私の設計としては造作収納をかなり多くつくった」と葛西さんも話す。
家全体できちんとモノがしまわれて、スッキリとしたS邸。そこで印象に残るのが、リビングの壁面に飾られた食器のコレクションだ。棚の背板は白く塗装されており、そこに置かれた皿の色みを鮮やかに引き立てている。
また、家族の集まるリビングには、各人にとって必要なモノをおさめる場所も必要だ。それらをしまう扉付きの収納を用意しつつ、普段使いのモノは手の届く位置のオープン棚に。
しまう収納と見せる棚をバランスよく配置することで、見た目の美しさと使い勝手のよさが両立する住まいに仕上がった。

南側から見た1階のLDK。2階まで吹き抜けた大空間の中、東西の壁面が収納棚として利用されているのが分かる。棚の奥行きは約28㎝。本や写真立て、ファイル、皿など様々なものを置くことができるサイズだ。

A. 南側には全面に開口部が設けられ、屋外のテラスまで空間が広がっていく。収納に利用された西側の壁にも高い位置に明かり取りの窓が配置され、壁面収納の圧迫感を和らげている。
B. リビングの壁面収納の下にはカバンを下げるためのフックを設置。子どもの小学校の制服やランドセルなどもここに。日常的に使うものなので、クロゼットにしまい込むよりも、フックに下げたほうが手に取りやすく便利。
C. 食器のコレクションは、升目状に区切られた壁面の飾り棚におさめた。白い背板により、収納のフレームのラインも美しく際立っている。
葛西さんは今までに150軒以上もの住宅を設計してきた。その経験から「生活の仕方は人それぞれ。設計者が正解を決めつけることはできない」と感じている。
収納についてもディテールまで細かくデザインして造作するのではなく、柱や梁の間を利用してざっくりとモノの置き場を用意することが多い。「要望があれば扉を付けますが、
基本的にオープンな棚のほうが使いやすいと思っています。どこに何があるか一目瞭然だし、目に見えていればそのモノの使用頻度も高まる。しまってある本をわざわざ取り出し
て読むことってほとんどないでしょう?」。
「 見せる収納は建主の自己表現の場でもある」と葛西さんは考えている。ここ数年、手掛けた住宅の壁面の棚を撮影しているのも、建主の発想や個性に刺激を受けるからだ。
「雑然としていてもいい。その中にも建主なりの自己表現があるはずですから」

