


30代のTさん夫妻は、家づくりを計画中に授かったという1歳の息子との3人暮らし。敷地は車の往来が多い車道に面し、南側には隣家が迫る厳しい環境だが、2階のLDKの窓からはご覧のように見晴らしのよい景色が望める。遠くのほうを散歩する人やランニングする人の動きが一望できるというのも、なかなか牧歌的な光景だ。
道路の向かいの広大な空き地は目下、土地区画整理事業が進行中で、8年後には複合施設や中高層マンションが建つ一大都市に生まれ変わるが、幸い目の前の一角は近隣住民のための大きな公園になることが決まっているという。
夫妻はこの近辺で土地を探した際、住宅街にある平凡な分譲地の一区画と、どちらを選ぶか迷い、建築家の山縣洋さんに両方見てもらった。山縣さんは「ここならおもしろい家ができますよ」と現在の敷地をすすめたとのこと。車道の騒音さえ解決すれば、通常の住宅地では得がたい、しかも将来にわたって保証された眺望が手に入る可能性を秘めているからだ。
話を聞いて納得した夫妻は今の土地を購入。アウトドア派の2人だけに、視覚的な開放感だけでなく、窓を開放して外気が楽しめる家にしたいという要望も加えた。

A. なんとも不思議な形の東側外観。帯状のグレーの壁を折り曲げて敷地全体を囲ったうえで、上と右下を斜めに切り落とし、大小の三角形の開口をつくったような感じだ。前を走る道路は車の往来が多く、騒音対策が大きな課題に。右端が駐車場、その左に玄関扉の下半分が見える。
B. 玄関を兼ねた広めの土間は夫妻の趣味のマウンテンバイクやスキーの収納スペースとして活躍。奥に駐車場と直結した出入り口がある。
C. 1階の寝室から見た中庭。ちょうど上の写真のグレーの壁の裏手にあたる。内側を白く塗った壁は車の音を遮る一方、南からの太陽光を反射し、やわらかな間接光を室内に導く。中庭は騒音を軽減する緩衝地帯としての役目も果たす。

道路と中庭を隔てる壁が音を遮り、光を反射して室内に導く。

スキップフロアの家に憧れていたという妻の要望に応え、ダイニングより40㎝高くしたリビングはあえてソファを置かず、床暖房を敷設して床座スタイルに。夫いわく、「大勢来客があるときは、1段高くなった床がちょうどベンチ代わりになって、テーブルの高さとも合うので便利ですね」。天井高は1段上がったリビングのレベルで3350㎜。三角形のトップライトから入る光が刻一刻、日時計のように床を移動していく。ちなみにこの天窓、奥行きを感じさせずエッジだけが見えるよう、ディテールに気を配っており、切り取った絵のような空が観賞できる。
東の空き地に向かって開きたいが、目の前の道路を走る車の音は遮断したい。この矛盾した条件をクリアするために山縣さんが導き出したのは、建物を道路から離れた西側に寄せ、東側に庭を設けたうえで、道路と庭の境に壁を立てるというプラン。境界の壁は騒音を跳ね返す一方、南から差し込んだ太陽光をバウンドして室内にやわらかな間接光を導く。また、中庭は騒音を減衰させる緩衝地帯としての役目も果たす。
かくして完成した家を外から見ると、普通の木造住宅とはかけ離れた不思議な多面体をしている。
むろん、このユニークな形は決して奇をてらったものではない。中庭やテラスを囲む壁の高さと傾斜角度、窓の大きさと配置を周到に考えた結果であり、おかげで道路や隣家からの視線を気にすることなく、遠望と戸外の空気を存分に楽しめる。また、南と西の隣家の隙間を狙いすまし、切り取るように開けた2階の三角形の天窓は一日中、安定した光をもたらす。「夏の夜、テラスでビールを飲むと気持ちがいいんですよ」
「周りが気にならないから、必要だと思っていたレースのカーテンもいりませんでしたね」と、夫妻とも
ども満足そうに語ってくれた。

A. .2階のLDK は外からは想像もつかないほど明るく開放的な空間。目の前の道路の喧噪は感じられず、向かい側の広大な空き地が遠くまで見渡せる。また、隣家の隙間を切り取るようにあけた右上隅の三角のトップライトからは一日中明るい光が差し込む。
B. 階段からダイニングを見上げたところ。ダイニングにも天窓が設けてある。右手の壁にあけた小窓のような開口部から、階下の来客の様子がうかがえる。
