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和の快楽。改築した古民家で自然と親しむ

人生を大きく変えた人や古民家との出会い

16年前、30歳そこそこの若さで単身、東京から飛騨に移り住んだ浦西正幸さん。現在は自らオーダー家具の製作を行う一方、妻の聖美さんとともに、地元作家のクラフトを扱うギャラリーを切り盛りする多忙な毎日を送っている。
移住の最初のきっかけは、家具工房の先駆けとして知られるオークヴィレッジの稲本正さんとの出会い。当時、東京の雑貨店で新規出店からオリジナル商品の開発まで、一切を任されていた浦西さんの能力とセンスを買った稲本さんが、高山で一緒に仕事をしないかと誘ってくれたのだそうだ。
新天地での仕事は楽しかったが、浦西さんの立場はあくまでも企画サイド。家具職人とかかわるうちに、しだいに自分も手を動かしてものづくりに携わりたいという思いが強くなっていったという。
そんな矢先、高山の隣町・古川で見つけたのが、車1台分と大差ない値段で買える一軒の古い家。「もともと古いものが好きで、古民家での暮らしに憧れもあったし、大工見習いの友人に建物を見てもらったら、半年もあれば改築できるんじゃないかと言うので買うことに決めたんですが、実際は3年近くもかかってしまいました」と浦西さんは苦笑する。



上2点のうち、上は北側の隣地の畑から、下は南側から見た外観。周辺には豊かな自然が広がる。屋根の中央に見えるのは、薪ストーブの煙突

A 住まいの周辺を散策する夫妻
B 鯉が泳ぐ水路沿いに古い街並みが続く、飛騨古川の中心地にて。色づき始めた寺の境内の木々が美しい。浦西さんのクラフトショップ「ギャラリー飛騨コレクション」もこの近くにある
C 玄関を入ってすぐ右手のディスプレイコーナー。一見ドット模様のような壁は、実はまだ下地板が見えたままの状態。いつかは左官仕上げにしたいと思いながら、なかなか時間がつくれないと嘆く 浦西さん。下に掛けてあるのはバリ島で買った布とカウベル
D 玄関に飾られた、鯉をモチーフにした張り子の壁掛けは飛騨の作家、平野明さんの作品。味わいのある壁の和紙は、住み始めてから夫妻で貼ったもの
E 玄関から奥のキッチンを見たところ

和紙を通したやわらかな自然光が室内全体を満たしている。古民家のインテリアに馴染んだ薪ストーブは、デンマーク製のアンデルセン・ストーブ。かつては蚕部屋だった屋根裏の一部を2階として使っているが、薪ストーブの上部は吹き抜けになっており、暖気は2階にも及ぶ

竹のざるや木のおひつなど、昔ながらの道具類も現役で活躍中

和とモダンが融合した長居したくなる空間

友人は責任を感じてか、2年間も土・日返上で工事に付き合ってくれたそうだが、素人同然の見習いとズブの素人による工事は難航。彼の全面協力ぶりに、自分も片手間で続けるのは無理と感じた浦西さんはついに退職し、バイトをしながら改築に没頭したという。
「大切なものの優先順位からいえば当然のことだったし、生きている実感が味わえた時期でした」
家づくりを通じ、ものづくりの楽しさを知ったことが、のちの家具製作の道へとつながってゆく。
ところで、聖美さんと出会ったのも、全面改修した住まいがようやく形になり始めた頃で、デートはもっぱら内外装工事現場だったとか。和裁を仕事とし、浦西さん同様、古いものや手仕事が好きな聖美さんだけに、施工の手伝いは楽しく、「結婚後はここに住めると思うと、うれしさがふつふつと湧いてきましたね」と振り返る。
住みながら夫婦で少しずつ完成させた室内は、古民家とはいっても純然たる和風ではなく、薪ストーブや木のカウンターが似合う、モダンさも兼ね備えた空間。食卓には聖美さんが地元の野菜や自家製味噌を使ってつくったおいしい料理が並ぶ。外で飲んでいてもすぐ家が恋しくなるという浦西さん。こんなに居心地よい住まいが待っているのだから無理もない。

A.キッチンは「結婚してから料理は100%、家内任せ」と言う浦西さんが独身時代につくったものだが、シンクが広く、使いやすいと聖美さん。陶芸好きの浦西さんゆえに器も十分揃っていたそう。夫妻の手づくりの陶器もたくさんある
B.リビングダイニングから無垢の木のカウンター越しに見たキッチン。背後に見えるのは浴室の入り口

C キッチン脇の壁面コーナー。拾い集めたという古い金具も浦西さんの手にかかると、センスのよいディスプレイ小物に
D 「子どもの頃、祖母がリカちゃん人形の浴衣をつくってくれるのを見ていたら、楽しそうで」と語る聖美さんは高校卒業後、5年間、京都の学校で本格的に和裁を学んだというキャリアの持ち主。今もギャラリーの運営や主婦業と両立させながら、着物を仕立てる仕事を続けている
E 光に透けて見える微妙な繊維のムラが美しい障子の和紙は、岐阜の美濃和紙を使用
F 薪ストーブの足元。長年使われてきた床の表情が味わい深い
G 夏の朝起きると玄関先に、近所の人が早朝に収穫したらしき朝採り野菜のお裾分けが山盛り置いてある日も珍しくないという
H レトロなデザインのはかりを置いた北側の一角

四季折々の豊かさを味わう飛騨の暮らし

冬は雪深く、寒さが厳しい飛騨。「すきまから入った雪が室内の窓ぎわにうっすら積もるほど。当面の夢はペアガラスの窓!」と笑う聖美さん。それだけに、春の訪れを告げる祭りの盛り上がりや夏・秋の収穫の喜びは格別。「夏は到来物が重なって、連日同じ野菜ばっかり食べたり、友人に配り歩いたりしてますね」「秋も地元ならではの味覚が楽しめますよ」と語る夫妻。四季折々の豊かさを堪しているようだ。

春/地元の小さな中野祭りの際には各戸を訪問するという、ユーモラスな獅子舞
夏/巨大作物はズッキーニ。2株も植えたら、毎日山のように収穫できて大変だったとか
秋/紅葉も美しい古川だが、芋類や栗、きのこなど、地元産の山の幸も美味だそうだ
冬/深い雪に覆われ、つららが伸びた浦西さん宅。室内の寒さは半端ではないらしい

2階北側に設けた本棚の前のコーナー。こぢんまりした落ち着けるスペースで、読書にはもってこい。左手の窓からは隣の庭や畑の緑が眺められる。手前は1階への階段

本棚に飾られている干支のぬいぐるみは、飛騨伝統の木版手染めの技を生かした地元の「真工藝」のオリジナル。中身はもみ殻

周りの自然も村も自分の家のようなもの

その後、浦西さんは技能専門学校で家具製作を学び、地元の家具メーカー勤務を経て独立。自然のままの表情を生かした無垢の一枚板のテーブルは、和室にも洋間にも馴染み、都会の若い世代にも人気が高いという。インターネットの普及につれて注文が増え、浦西さんは東奔西走の日々だ。
自分の出身地でもない田舎に腰を据え、今ではすっかり「飛騨人」の暮らしが板についた浦西さん。
「周りの自然も村も自分の家みたいなもんだと思えば、道ばたにゴミを捨てたりはしないし、草刈りや溝掃除や行事に参加するのも当たり前のことだと思うんです」
古いタンスや小物の多くはもらいもので、夏から秋にかけては近所から野菜が頻繁に届くと語る夫妻。田舎のしがらみを積極的に楽しもうという浦西さんの姿勢と、よそ者を温かく迎え入れる古川人気質の相乗効果に違いない。
最後に、和の暮らしについて問うと、こう締めくくってくれた。
「地元のじいちゃんは大工も畑も自分でやるし、農機具を扱うから機械のこともよく知っていて、甲斐性があるんですよ。本当の和の暮らしとは、そんなふうに自分で手をかけて自分の暮らしを営むということじゃないでしょうか」

AB.1階奥の収納スペース。国籍も時代も様々な骨董品や器のコレクションが渾然一体となり、何ともいい雰囲気
C.屋根裏にあった蚕部屋を2階として生かした。現在は左手に続く畳のスペースを寝室として使用。正面に並んだ椅子のうち、右から3脚目は浦西さんの作品 D.柱梁と屋根のみを残し、骨だけになった大改築の途中経過。ここに至るまでの解体と基礎づくりに1年を費やした。「こんなボロ家、つぶして建て替えたほうが早いよと、みんなに言われましたが、古いものを何とか残して生かしたかった。抜いた釘まで叩いて伸ばして使ってました」と浦西さんは苦労を語る

一枚板のテーブルと飛騨のクラフトを見せる場

浦西さんの活動の拠点は現在、大きく2つに分かれている。
まず1つ目は、自身が製作したオリジナル家具を中心に扱う「家具工房 正」。メインは木の自然の造形美をそのまま生かした、無垢の一枚板のテーブル。古川町の郊外にある建物の1階には、浦西さんが厳選して仕入れた多様な樹種の一枚板の原木がずらりと並び、2階のショールームではテーブルに仕立てたときの木目の表情や手触り、脚のデザインのバリエーションなどを確かめることができる。
一方、市街地にある「ギャラリー飛騨コレクション」は、地元で創作活動を行う作家の作品が一堂に会した場。陶芸、ガラス、染織など、多彩なクラフトを扱っており、妻の聖美さんも運営にあたっている。
昔取った杵柄で営業企画力を生かしてPRが苦手な仲間たちを応援し、愛する飛騨を盛り立てたいという浦西さんの心意気が感じられる。

「ギャラリー飛騨コレクション」と「家具工房 正」、どちらも連絡先は、
TEL:0577・73・7515
e-mail:u-hidacolle@hida-catv.jp
HP:http://www.hidacolle.com

これらのコンテンツは、
扶桑社「住まいの設計」2010年3月号
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このページに記載されている記事本文、写真等は扶桑社「住まいの設計」2010年3月号より転載しています。

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